■2015年4月18日(土)

  


読書会「科学者が人間であること」中村桂子著 岩波新書
2015年4月18日(土)12:15〜13:15(於:学習院大学北1号館多目的室B)
担当 井上さん 
参加者 24名

 とても詳細なプリントを用意してくださり、本の内容に関してわかりやすく話していただいた。
 3.11の事実を踏まえて、科学のありよう、科学者はどうあらねばならないのだろうかと考えたところから本書が始まっている。本書を通じて著者が訴えていることは「人間は生きものであり、自然の中にある」、特に、自然を研究対象とする科学者が、この感覚を失ってはならない、ということだ。著者は50年近く生命科学の研究をし、「生命誌」を提唱してきたということで、井上さんが見せてくださったのは「生命誌絵巻」の絵葉書だった(これは、JT生命誌研究館のHPからも見ることができる)。
 生命誌は、約38億年前に存在した祖先細胞から現存するすべての生きものが生まれてきたことを示す。人間もまたその一つの祖先から生まれ、38億年という時間を体の中に持つということを他の生きものと共有している。また同じ祖先から生まれてきたにもかかわらず、生きものの基本は多様性ということにある。「人間は生きものである」という考え方は多様性を大事にし、様々な場にある自然、暮らしや文化が織りなす社会を求めるものだそうだ。
 福島の原発事故の後、専門家の対応に多くの人が疑問を抱いた。それは、専門家が、自分たちも「生活者」なのだという感覚を失って閉じられた集団の価値観を指針に行動していたということが明らかになったからだ。自分の専門対象という狭いところだけでなく、自然そのものに向き合っていく努力が必要なのだ。
 プリントの最後にレイチェル・カーソンの言葉が書かれていた。
「人間の精神が地球そのものとその美しさに惹かれるには、深く根差した、論理にかなった根拠があるに違いありません。人間として、私たちは生命の大いなる流れからすればほんの一部分にすぎないのです。私たちの起源は地球にあります。ですから、私たちの体の奥底には、自然界に呼応するものが存在するのであり、それは人間性の一部分なのです」
 出席者からは「この本は誰を対象として書かれているのだろうか」という問題提起があった。実際に科学を志す人を対象にして、どのような心構えで研究を進めていくべきかということが書いてある本だと思う。だから一般人が読む場合は難しい部分が多かった。しかし、担当者のていねいな説明で、書いてある内容がよくわかったと感想が述べられた。また、カーソンの言葉がこの本の内容を言い尽くしているのでは、という声も聞かれた。参考文献のうち、『生命研究のパイオニアたち』(中村桂子編著)の12章「自分の頭で考える―ウィルス研究からがん遺伝子の発見へ」で語った花房秀三郎さんは井上さんの伯父上であるとか。今日の読書会の内容にぴったりの本のようである。
                          (文責 小川)