■上遠 恵子からのメッセージ 


「別の道を歩く勇気を」

 アメリカ発の金融不況が雪崩のように襲ってきてあれよあれよという間に世界中の経済がおかしくなってしまいました。 数年前、「奪われし未来」の著者の一人、ダイアン・ダマノスキーさんが“グローバリゼションは、たくさんの玉子を一つの籠に入れたようなもので籠が落ちたら玉子は全部割れてしまうという危険性を含んでいる” と言っていたことを思い出しました。地球の長い歴史の中で、気候変動などのさまざまな難関を人類が乗り越えてきたのは、いろいろの文明や文化が各地に散っていたからではないでしょうか。レイチェル・カーソンが「沈黙の春」の最終章“別の道”で言っているように私たちはITに象徴されるハイウエイを突っ走り過ぎたのです。走りながら相互信頼、思いやり、譲り合い、隣人愛などを落として来たのではないでしょうか。荒廃した心のなせる悲しい出来事が多すぎます。
 二年ほど前、“自然体験をすることによって、自然には人間の力ではどうにもならないリズムがあることを知ったとき人間は謙虚になり他者を考えることができるようになるのではないか“ とある講演会場で話したことがあります。若い人から質問がありました。“言っていることは分かるがこの競争社会ではそのような甘い考えでは通用しないのではないか”と。この質問はいまも私の心の中で問いかけつづけています。しかし、わたしは甘いと言われても世間知らずと言われてもこの道を歩んで行きたいと思うのです。いまこそ、それぞれの生活のなかで“別の道”を歩く勇気が求められているのではないでしょうか。
 二月になると寒さは厳しくても太陽は光を増してきます。野鳥たちの動きもそれにつれて活発になってきました。私も負けないように元気を出して3月1日、関西フォーラムの「レイチェル・カーソンのつどい2009」に出席し、3月12日には、横浜市従業員組合の平和憲法連続講座で「鳥や虫のいない沈黙の春にさせないために」と題して環境と平和についてお話をすることになっています。
 ことしも仲良く学んだり、自然の中に出かけて思い切り深呼吸してエネルギーを充填したり、地球規模で進んでいる環境危機を乗り越える広範な知識と強靱な精神を培って充実した時間を共有しましょう。
(しおかぜ 40号より 2009年2月10日)

■上遠 恵子のプロフィール

東京都出身。東京薬科大学卒業。研究室勤務、学会誌編集者を経て、現在エッセイスト。
レイチェル・カーソン日本協会理事長。
レイチェル・カーソンの著作物の訳書に『海辺』(1987年、平河出版社、原題The Edge of the Sea)、『潮風の下で』(93年、宝島社、Under the Sea-Wind)、『センス・オブ・ワンダー』(91年、祐学社、96年、新潮社、The Sense of Wonder)など多数。
訳書としてほかにF・グレアム著『サイレント・スプリングの行くえ』(70年、同文書院、Since Silent Spring)、P・ブルックス著『レイチェル・カーソン』(『生命の棲家』改題、74年、新潮社、The House of Life: Rachel Carson at Work)、C・スコールズ『平和へ』などがある。
上遠が出演するドキュメンタリー映画「センス・オブ・ワンダー:レイチェル・カーソンの贈りもの」は全国で上映会が開催された。